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『ザ・ストレイン』

秋葉鮫隊長オススメの一冊。『ミミック』『ブレイド2』など ホラーやアクション映画で名を上げ、ついには『ホビットの冒険』 の監督に指名された腕利き映像作家ギレルモ・デル・トロ (ラヴクラフト『狂気の山脈にて』を映画化というガセネタも ありましたねえ…)。彼が自ら企画したテレビシリーズ用の プロットを、俊英サスペンス作家チャック・ホーガンと共作で 長編小説化したもの。うーん面白かったです。 ニューヨークの空港に着陸した最新鋭大型旅客機が、突然すべての 応答を断ち、沈黙する。事故か? テロか? 未知の疫病か? 緊迫する空港。一斉に動き出す各方面の治安維持機関。このあたりの 重厚なリアリティあふれるツカミの巧さは抜群で、一気に引き 込まれます。 疾病対策センターの有能なエージェントである主人公イーフ・グッド ウェザーも、伝染病あるいは生物兵器の可能性の懸念から、現場に 招集されます。女相棒とともに機内に入ったイーフが見たものは、 一切のパニックの痕跡もなく、しかし一人残らず死に絶えた 乗客達の姿でした…… 以下ネタバレ。

編集部がいい仕事してるなあと思うのは、帯を読んでもネタの核心に 触れてないところなんですよね。一見したところ、少し前に流行した パンデミック・サスペンスかと思わせるようになってる。 イーフたちが調査を進めるうちに、乗客達を殺したウイルスが全く 未知の症状をもたらすものであることがわかります。ウイルスは 宿主の体そのものをグロテスクに変態させ、人間の血を吸う生物に 変えてしまうのです。 なんだ吸血鬼ものかよー、と軽くガッカリしたりもしますが、徹底的に 考証された「生物としてのヴァンパイア」「その感染システムの医学的 設定」に、デル・トロのコダワリっぷりが光ります。 また「吸血鬼がニューヨークにパンデミックする」というサスペンス、 一体誰がその陰謀を仕組んだのか、というミステリ要素も読者を がっつり惹きつけます。 半世紀以上にわたって東欧でマスター吸血鬼を追い続けてきた老 ハンターや、独自にこの怪奇現象を追っていたNY市の害獣駆除 エキスパートである大男と次々に出会い、イーフの探求はいよいよ 恐怖の核心に迫っていきます。新ネタと王道ネタのミックス具合も なかなか良いです。 一方で、「長老たち」と、それに反逆する若い世代のヴァンパイアと いうバックグラウンドは、『ブレイド』からのイタダキですね。 クライマックスに登場する紫外線地雷も、デル・トロがメガホンを 執った『ブレイド2』にまんまの兵器が登場してたような( ̄▽ ̄) また感染システムをここまで考証するなら、「吸血鬼を倒すには銀が 有効である」という設定も、もうちょっと細かく医学的な設定をして 欲しかったなと。 あと、主人公に付き従う女相棒に魅力がなさすぎるとか(まあこれは 本命キャラが別れたカミさんだから仕方ない側面もありますが)、 細かいところにいろいろ文句もありますが、トータルとして満足度は 高いホラー・サスペンスでした。作者二人が忙しすぎて続編書けんの かーっという話もあるそうですが、全三部作、気長に完結を待ちたい と思います( ̄▽ ̄)

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