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『0:34 レイジ34フン』@スタチャ


ロンドンの地下鉄を舞台にしたブリティッシュ・ ホラー・ムービー。終電に乗り過ごしたヒロインが 深夜の地下世界で出会う正体不明の殺人鬼の恐怖を 描く。 地下鉄ってーのは都市生活者の身近な足である一方 最も身近な異世界であると思う。陽光が差さず、 無機的で、閉塞した地底世界。かくいうわしも地下の 風景は大好きで、ヒマがあるとよくブラブラと写真を 撮りに行く。 映画の舞台としてもたいへん魅力的で、リュック・ ベッソンの初期作品『サブウェイ』は、映画としては 退屈な出来だったけれど、地下鉄の異界性を美しく 描き出していた。ホラーではギレルモ・デル・トロ 監督の『ミミック』が、地下鉄に巣食う怪物を描いた 秀作だった。 本作でも世界最古の歴史を持つロンドン地下鉄の 近代化された表層と、その奥に底知れぬ過去を秘めた 深層が魅力的に描かれていた。 地下鉄に住む怪人の正体がぼんやり暗示されるだけで、 最後までナゾのままなのも不気味でいい。この種の モンスターは闇の中でチラッチラッと見せるのが 常道だが、こいつ(名前はクレイグ)は思いっきり 明るいところに出てくる。地下鉄につながった怪しい 医療施設で育てられたらしいが、詳細は不明だ。 この地下施設がなかなか印象深く、無人なのに 今も煌々と照明が点き、何本もの胎児の標本、そして 並んだ空のベビーベッドが薄気味悪い。ここで クレイグが手術の猿真似をしながら少女を虐殺する シーンは本作のクライマックスだ(角度によっては 擬似性交のように見え、おぞましさが倍加する)。 反面、素手で人間をひねり殺し、地下鉄を乗り回す 能力がありながら、女にハイヒールで目を突かれて ヘロヘロになったり、強いのか弱いのかわかんない あたりはオチャメだ。 ヒロインがまたイヤな女で、物事を何かというとカネで 解決しようとしたり、危機に陥った後ですら、自分で 出来ることをいちいち人に命令してやらせようとするの。 これがイギリス人に特有の階級感覚ってやつなのかな (まあヒロインはドイツ人だけども)。いいかげん こいつ死んでもいいかなと思っちゃうんだけど、この 設定が実はラストシーンにちゃんと活きてくるのを見て、 ちょっと感心した。 クリストファー・スミス監督の演出はハリウッド流の パターン化した演出とは一味違って新鮮。ただ、冒頭、 怪物が運転してるはずの無人の地下鉄に、唐突に ヒロインの知り合いが現れるクダリはひどかったな (説明もないし、すぐ死ぬし)。そこさえ目をつぶれば 佳作かも。あ、あと邦題が原題よりセンスがいい珍しい 映画でもある。配給会社ぐっじょぶ。

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