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『ローガン』見てきたった

ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンを演じる最後の映画となります
『ローガン』、そろそろ上映終了なので見てきました。
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いや素晴らしい映画でした。
【以下ネタバレ】


政府の策謀によってミュータントが絶滅した近未来。

ウルヴァリンことローガンは戦士であることをやめ、しがない
リムジン運転手をやって日銭を稼いでいる。長年に渡る体内の
アダマンチウム合金の作用で骨肉を蝕まれ、200年以上に及び
不老不死を誇ってきた肉体も明白に衰えつつある。髪も髭も
白いものが目立ち、ゴホゴホと景気の悪い咳をしながら足を
引きずり歩く姿はもはや老人だ。超治癒能力もかつてほどの
目覚ましさはもうない。

彼が面倒を見ているプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアは
すでに90代。アルツハイマーに侵され、クスリがないとテレパシーの
暴走発作を起こしてしまう。今や彼とローガン、そしてもう一人の
仲間のキャリバンが世界で最後のミュータントだ。

そんなある日、ローガンは見知らぬ女性から、ある子供を
運んでほしいと依頼を受ける。一言も口を利かない無表情な
その子供ローラは、ある企業が放った殺し屋部隊に追われている。
殺し屋部隊は人数も装備も潤沢、サイボーグまでいるプロだ。
しぶしぶながら成り行きでローラを運ぶことになるローガンだが、
老いた体ではもはや多勢を相手に戦うことは難しい。

しかしローラは、ウルヴァリンと同じ「ウエポンX」だった。
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幼い肉体にアダマンチウムの爪を備え、超人的な怪力と
運動能力を持ち、容赦なく人間をズタズタにできる残酷さを
秘めた人間兵器。ローラはとある企業が兵器として人工的に
作った実験体ミュータントの一人だったのだ。そして彼女を
追う殺し屋部隊は、その企業が放った刺客だった。

かくしてローガン、チャールズ、ローラの奇妙な旅が始まる。
老いてますます気難しく無愛想になったローガンだが、
チャールズは次第にかつての知的な紳士ぶりを取り戻し、
そんなチャールズにローラの凍った心も次第に打ち解けてくる。
一方ローガンは、ローラが遺伝子的には自分の娘だと
聞かされても困惑し、苦々しい顔をするばかりだ。

愛するひとは必ず悲惨な死を遂げる運命に心が乾ききって
しまったローガン、自身のテレパシー発作で多数の同胞を
殺してしまったという底知れぬ罪悪感を抱いているチャールズ、
兵器として作られ愛も家族も知らない少女ローラ。
それぞれの傷を抱えた三人の旅は、美しい映像とあいまって
心にしみる良質なロードムービーとなっている。

もちろんイイのは人間ドラマばかりではない。
R-15指定なのでアクションシーンもド迫力。なにがイイって
血がドバドバ、首切りズバーッ! これまでの『X-MEN』は
ファミリー映画だからウルヴァリンがどんなにツメを
突き刺しても血は一滴も出なかったけれど、本作では
顔面突き刺すわ頭蓋骨貫通するわ血糊もビシャー。
うおー、こんなウルヴァリンが見たかった!と爽快感抜群。
特に序盤のメキシコシーンはキャラクターも風景もカサカサに
乾燥した中ほとばしる血潮は70年代のサム・ペキンパー映画
みたいでまたシブいのだ。

ロリヴァリン……もといローラのアクションも同様に強烈。
ファーストバトルシーン、自分で切り落とした殺し屋の生首を
かかえて隠れ家からゆっくりと現れるキラー幼女のカッコ
よさったらない! クライマックスの、クローン・ウルヴァリンへ
絶叫とともにツメを突き立てまくるところもしびれる。ローガン
秘蔵のアダマンチウム弾で敵にトドメを刺すのもこの幼女
なんだもの。もうたまりません。

殺伐としたこの世界にたったひとつ理性の光を灯すのは
往年の名作西部劇映画『シェーン』だ。シェーンの台詞
「人を殺したものは一生その烙印を負う。たとえそれが
正しい行為だったとしても」 ローラと、その仲間の子どもたちを
守り抜いたローガンは、その言葉をローラに残す。
「もう戦わなくていいんだ。奴らの思い通りに生きるな」
今際のきわにローガンがローラに贈った言葉は、自分自身への
鎮魂の句だったのもかもしれない。

ちなみにこの作品世界は、これまでの『X-MEN』世界とは
パラレルワールドになるようで、なにかしらのミュータント
組織はあったようだが、ヒーローチームX-MENはコミックの
中だけの架空の存在という設定になっている。これがまた
シナリオに効いていて、ラストシーン、ローラがローガンの
墓標である十字架をそっと横に倒して「X」の形にしてから
去っていく幕切れは思わずウルッときたことだなあ。

90年代以降、アメコミ映画の力作は数多く作られてきた
けれども、人生の黄昏を迎えた男たちをじっくりと描いた
本作は、通常のスーパーヒーロー映画とは一線を画す
傑作ハードボイルド・ロードムービーとなっている。



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